選手を追い詰めないために知っておきたい「オーバートレーニング症候群」
今回はプロのサッカー選手にも多い「オーバートレーニング症候群」についてです。
「オーバートレーニング症候群」とはどのようなものなのか?
スポーツ選手の保護者や選手を預かる指導者のみなさんには必ず知っておいていただきたい事です。
このブログを読むと次のことが分かりますよ。
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オーバートレーニング症候群
2019年8月4日に清水エスパルスの六反勇治選手がオーバートレーニング症候群と診断されたと発表がありました。
この「オーバートレーニング症候群」という言葉が一般的に知られるようになったのは1999年に市川大祐選手が診断されたことが大きなキッカケでした。
その後にも権田修一選手などもこの診断を受けましたし、サッカー以外の競技でも複数のトップアスリートがこの診断を受けて休養や引退を余儀なくされています。
このような形で耳にすることが多い症状なのでつい「トップアスリート」や「エリート選手」のみが対象になるのかと思いがちですが一般の選手にも起こりますし、もちろん子どものスポーツ選手も例外ではありません。
報道で話題になるようなプロの選手以外の一般の選手の場合には本人のやる気のせいにされたりすることで表面化しないだけなのです。
どのようなもの?
オーバートレーニング症候群とはどのようなものなのか?
スポーツの実施などによって生じる生理的な疲労が、十分に回復しないまま積み重なって起こる慢性疲労状態のことを指します。
スポーツトレーニングは、日常の身体活動のレベルより大きな負荷の運動をすることによってトレーニング効果が得られるという原則があります。これを過負荷の原則(オーバーロード・トレーニング)といいますが、大きな過負荷を続けると同時に、疲労回復に必要な栄養と休養が不十分であった場合には、かえって競技の成績やトレーニングの効果が低下してしまいます。このような状態をオーバートレーニング症候群といいます。
e-ヘルスネットより
スポーツのトレーニングは基本的には「身体を痛める」ということになります。
痛めつけられた身体は「栄養」と「休養」を取りながら「回復」することで次の段階に成長していきます。
「回復」は次のトレーニングを行うことへの準備なのですが、回復しきらないうちに次のトレーニングを行うことで身体にはダメージが蓄積されていきます。
この状況が重なることでパフォーマンスの低下や身体の不調、慢性的な疲労が表れます。
さらに重症化すると精神的な落ち込みなどのうつと同様の症状が表れることもあります。
▲出典:名古屋ハートセンターHPより
ただし、慢性的な疲労やパフォーマンスの低下の原因としては貧血などの内科的な要素やトレーニング内容の問題という可能性もあります。
オーバートレーニング症候群はそれらの可能性を除外した結果として診断されます。
コンディションを決める4つの要素
スポーツ選手のコンディションを決める4つの要素があります。
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この4つのうちの1つ以上のバランスが崩れると様々な障害の要因となります。
それはいわゆる「スポーツ障害」のような身体的なものから貧血などの内科的な疾患、さらに精神的なものまで幅広く可能性があります。
そしてオーバートレーニング症候群もその可能性の中に含まれます。
スポーツにはこのような危険な側面があることも指導者や保護者は知っておくべきだと思います。
自分の担当選手やお子様の普段の生活スタイルとスポーツの関係において上の4つの要素のバランスはいかがでしょうか?
トレーニングは主に指導者に関わる部分。
食事は主に保護者に関わる部分。
休養とメンタルは指導者と保護者が共に関わらなければならない部分。
このように考えても選手にとっての良い環境作りには指導者と保護者が協力しあうことが大事になるのです。
真面目さと責任感の強さが原因?
オーバートレーニング症候群になると精神的なストレスから鬱状態に近い症状になってしまうこともあります。
練習に参加出来ない、練習に付いていけない・・・という焦りから非常に強い精神的ストレスを抱えてしまうのです。
これがやがて「興味の喪失」を引き起こして好きな事に対しても意欲が出なくなってしまう。
サッカー選手の場合には元々が「サッカーが好き」がモチベーションであって、何かしらの壁に直面した時にもそれが乗り越えるための最後の力になるのですが、それさえも意欲を失ってしまう。
こうなると競技引退という道になってしまうこともあるわけです。
そのようになってしまう選手は基本的に「真面目」であって「責任感が強い」という選手です。
「真面目で責任感が強い選手」は指導者や親などからの期待も大きくなりがちですし他の選手よりも多くの物を背負ってしまうこともありがち。
そういった面もオーバートレーニング症候群になってしまう要因としてはあるのだと思われます。
また周囲の人達が「休むのは甘え」「ひたすら練習あるのみ」という考え方で接していることで選手本人もそれが正しいと思い込んでしまうことがあります(特にジュニアの選手は親や指導者の価値観に左右されやすい)。
そうなると本人が「休んではいけない」「甘えてはいけない」と自分を追い込んでいきますのでますます危険性は高くなっていきます。
練習のしすぎ
スペインやドイツのサッカー指導者が日本の子ども達に対して驚くことの一つに「成長痛の多さ」があるそうです。
ここでいう「成長痛」とはオスグッドとかシーバーといったスポーツ障害のことだと思われますが、その発症数がスペイン人の子どもと比較して圧倒的に多くて、その理由は「練習が多すぎる」とのこと(参照:REALSPORTS)。
サッカークラブに入っている小学生の場合の平均的な活動日数は平日2日または3日+週末というもので1週間のうちで5日のサッカー活動です。
週末の活動のみの少年団などでも平日に連日スクールに通ったりで個人の活動日数的にはクラブと変わりません。
そしてその内容も「試合翌日には緩い調整」のような配慮はあまりされておらず常にフルの内容だったりするわけです。
さらにこれが高校のサッカー部員などの場合。
朝練習から日中の授業、放課後の練習からその後の居残りの自主練。
週末は早朝から集合しての試合や練習でほとんどオフ日が無いような生活サイクルが続くことが当たり前になっています。
このスケジュールがずっと続くとするならばやはり「休養」が足りない。
そして「栄養」という面でも食事の量が少ない、間食が多い、コンビニ食が多いなどの問題が多くあります。
これではスポーツ選手として最大限のパフォーマンスが発揮できるはずも無いですし、オーバートレーニング症候群にいずれなるためにスポーツをやっているかのようでもあります。
指導者が「なかなか選手が伸びてこない」と悩んでいることも多いかと思いますが、もしかしたら本来はもっと良いパフォーマンスを発揮できる選手が軽度のオーバートレーニング症候群状態になってしまっていて逆にパフォーマンスを下げている可能性もあります。
さらに現在のジュニアからユース年代にかけてのスポーツ障害の多さはやはり無視できません。
考え方を変えてみるともしかしたらスポーツ障害というのはオーバートレーニング症候群にならないための自己防衛なのかもしれません。
なってしまったら
オーバートレーニング症候群の治療方法としては「休養」ということになりますが、その時に「休むことは悪いことじゃない」という意識を本人がもつ必要があります。
それにあたっては指導者・家族・チームメイトなどの理解が必要ですが、私がこのブログを書いたのはこれが目的でもあります。
周囲の人たちがオーバートレーニング症候群への理解を持ち、休養の必要性を知り、話を聞いてあげる(傾聴)ことはとても重要です。
こう書くとお気づきのかたもいらっしゃると思いますがこれは鬱病などに対する事と同じなのです。
つまりオーバートレーニング症候群とは身体の鬱病なのでは・・・・。
鬱病患者の数はこのようにとても多いのが現状ですがこれはやはり「追い込まれるまで頑張るのが美徳」の風潮なのかもしれませんし、オーバートレーニング症候群もその風潮ゆえなのかもしれません。
まとめ
練習しているのにパフォーマンスが落ちて来たとか、身体の疲れや筋肉痛が取れない、風邪をひきやすい、意欲がわかない・・・などがオーバートレーニング症候群の兆候です。
日常的にこのようなことが起こることもあるのであまり神経質になる必要はありませんが、頻繁におこったり長い期間に続くようなら専門医の検査を受けてみるが良いと思います。
上に書いたように貧血などの可能性もありますので安易にオーバートレーニング症候群とは決められませんし、その原因によっては必要な対処も変わります。
専門医は基本は整形外科となりますが、私は内科系のスポーツドクターをお勧めします。
下のサイトから全国のスポーツドクターを探せるので必要でしたらご参考にしてください。
オーバートレーニング症候群はトップアスリートだけの事では無いのです。
普段から自分の身体や選手の身体のことを良く観察してくださいね!
それでは良い一日を!